背中の傷に消毒液を当てる。 神田はもはや観念したのか、目覚めてからも存外静かにしていた。一年前に比べればずいぶん従順になったこと、と思いながらは消毒液の蓋を閉める。従順になったのは彼女に抵抗すればどうなるかがわかってきたからなのだけど、神田はただ顔をしかめて神妙に座っていた。 肩の打ち身に湿布を貼り腕の包帯を確認してから、はい、と手で背中を叩くと、無言で、けれど不満そうに、上着を羽織る。 「あのねぇ神田、この前も言ったけど任務中に突っ走るのはやめて治療中に逃げるのはやめて」 救急箱の中に包帯をしまいながらが言うと、舌打ちしたので、すかさずの右足が神田の尻を蹴り上げる。 「痛ェな!」 「舌打ちすんのもやめろ!」 「うるせぇな!治療なんざ必要ねぇんだよ」 傍に置かれていた六幻を手に取り神田ががなる。はため息をついて立ち上がった。救急箱をとりあえず棚にしまう。神田は仏頂面でさっさと廊下に出ていた。後を追って、揺れる神田のポニーテールを掴む。 「はなせ」 「ね、さっきのアレンてどんな感じ?」 「…白髪のやつ?」 神田の眉が思い切り寄せられる。が横に並んで手の中で神田の髪を弄りながら、いや良い子そうだったなぁと思ってと言うと、神田はの手の中の髪を奪い返し後ろになびかせ、はっ、と鼻で笑った。むかつく。 「寄生型の対アクマ武器だ」 「へぇ、久しぶり 「けど、呪われてるらしいぜ、額にアクマのペンタクルだとよ」 「エクソシストが呪い?」 は目を見開き、少し考えるようなそぶりを見せてから、コムイが好きそう、と同情的に笑った。コムイに好かれることが必ずしもプラスでないことはこの教団にいる誰もが知っている。優秀なマッドサイエンティストの顔を思い浮かべ、あーあ、と息を吐くと、神田が呟いた。 「…今頃治療受けてんじゃねぇか」 「え、斬ったの?」 あんなに可愛いのに?!が責めるような目を向けると、神田は顔をしかめた。 「(可愛い?)…スパイだっつったから」 「神田頭悪いもんね」 「殺すぞ」 修理とは、ますます災難ね。が顔をしかめ、わざとらしく十字をきると、神田は呆れたようにさっさと歩を進めた。この男はいつまでたっても連れない態度だ、と思いながらも早足で後を追う。 「ねー神田」 「…」 「神田ー」 「鬱陶しいまとわりつくな」 「任務の報告行かないと」 「俺は寝る」 (え、ひどい…) 衝撃を受けて立ちどまったを無視して神田はさっさと歩いていく。 「私ひとりで報告すんのあのクソ面倒くさい任務内容を私が?ひとりで?」 「お れ は ね る」 「…寝顔に落書き決定だから この バ神田☆」 「殺すぞ」 ぼそりとつぶやいた声はしっかりと神田の耳に届いていたらしい。腹が立ったから、足早に歩く神田の後をつかつかと追いかけ、後になびく団服の裾を右足で踏んづけて左足でその背中を蹴飛ばしてやった。ぶっ、とまぬけな声を出して神田が顔面から倒れる。 「ごめん、私足癖悪くって」 あーはっはっはっはっはっははははははほほほほほほ! 倒れ付した神田の上から高らかに笑い声をあげてやった。神田の肩が震えている。 「てっ…ッ」 めぇぇえええぇぇぇえ!! と神田がおきあがると同時には全力で逃走した。 |