後ろでガシャンと門が閉まる。
中は石造りで天井の高い、聖堂のようになっていた。はぁぁ、と息を吐きながらきょろきょろと見回していると、横の女の子がクスクスと笑った。

「私は室長助手のリナリー。室長の所まで案内するわね」

言って微笑む。括った髪が肩に触れさらさらという。かわいい女の子だ。

「よろしく」

アレンが言うと、じゃあこっちね、とリナリーは奥を指差さした。その横で、神田がさっ、と身を翻し反対方向へと進もうとする。

「あ、カンダ」

声をかけたら思い切りにらまれた。思わず引きつった笑みを浮かべて、って、名前でしたよね…?と確かめてしまう。

「よろしく」

たとえ襲われたとしてもここに来て初めてであったエクソシストなのだ。右手を差し出し微笑むと、神田はアレンの右手と顔を交互に見て、顔をゆがめた。

「呪われてるやつと握手なんかするかよ」

そう言い捨てるや否や背を向ける。

(…っ差別…!)

流石に色々とこみ上げて手が震えた。なんだあのポニー。

「ごめんね。任務から戻ったばかりで気が立ってるの」

リナリーがとりなすように言った。いや、気にしてないよ、と微笑みながら神田の背中を見送る。なんだかこの先うまくやっていけるか不安だ。なんであんな風につんけん…し、て
不意に神田の姿が視界から消えた。

「?!」
かああぁあぁんんんだぁぁぁぁあ?

正しくは消えたのでなく、何者かに弾き飛ばされたのだと一拍遅れてわかった。唖然と見守る中で、神田をふっとばした人物は倒れた神田の胸倉をつかんで起き上がらせた。

「お前治療中にいきなり消えないでくれる?しかもそっち医療室じゃないしね逃げる気か?」
「…ッッぶっ殺すぞ!」

自分の上に馬乗りになって胸倉をつかむのに神田が思い切りがなる。

「重いんだよどけ!はなせ!」
「お前が逃げるからだろ!」
「お前が乗っかってっと傷悪化すんだろーがよ!」
「暴れるからだろ!」

はなせ、と暴れる神田に、とうとう胸倉をつかんでいた相手は立ち上がった。かと思ったら殴った。いきなりの衝撃に、神田が一瞬硬直したかと思うと、倒れる。

「…」
「…」
「…あれ」

殴った相手が足元に倒れた神田の腕をつかみ上げるのを唖然と眺めていたら、ふと、目が合った。
アレンの肩が思い切り跳ねる。ここに来てからそんなんばっかりだ。

…」

後ろからリナリーのあきれたような声が聞こえた。
?首をかしげてリナリーを見ると、彼女の名前よ、と言われた。と呼ばれた人物は片手をあげて、あれ?と首をかしげながら此方に歩いてくる。神田をひきずりながら。

「リナリーどうしたの?なに、スパイってこの子?」
「スパイじゃないわ、アレンくん。エクソシストよ」

アレンがとりあえず、どうも、と頭を下げると、は小さく目を見開いて、それから、よろしく、と柔らかく微笑んだ。東洋人らしい顔をした、黒髪短髪長身の女性だった。年はアレンやリナリーよりも上に見える。

「アレンくん、もエクソシストでさっきまで神田と一緒に任務に行ってたの…ねぇ、神田大丈夫なの?」

リナリーが紹介をしてから、に腕をつかまれひきずられている神田を覗き込む。アレンも恐る恐ると様子を見た。どうやら完全に気絶してしまっているようだ。

「だってこの子すぐ逃げるんだもん」

も自分の腕の先を見下ろして不満げに言った。

「相変わらず仲悪いわね」
「仲悪いんじゃなくてこの子が治療中に逃げ出すからいけないの。任務中も全然言うこと聞かずに突っ走ってほら、こうやって怪我するし」

は、包帯を巻かれた神田の体を見ながらやれやれといった風に首をふる。
どちらかというと彼女のせいで傷が増えたような気がするけれど、言わないほうが無難かもしれない。アレンが中途半端に笑うと、は興味津々というように顔を覗き込んできた。

「リナリーと歳同じくらい?珍しい髪色してるのね」
「…15です」

片手で髪を触りながら言う。あまり髪のことを話題にされるのは好きじゃない。彼女はへぇ、と頷いて微笑みながらアレンの頭を撫でた。

「きれいな色ね。白髪の人ってハゲないらしいよ」

(ハゲ…)
それは良かったと言えば良いんだろうか。返答の仕方がわからずとりあえず撫でられた場所を手で触る。は嬉しそうに笑って可愛い可愛いうなづいた。それからリナリーの頭もよしよしと撫でる。リナリーは嬉しそうに微笑みながら、ふと目を見開いて神田を指差した。

神田が痙攣してるわ」
「あ、ほんとだ」

は神田の両腕をそれぞれの手につかんで笑った。

「じゃあ私ちょっと治療してくる。あとでね、アレン」

嬉しそうに言いながらずるずると神田を引きずりながら奥の角を曲がっていくの姿を見送り、とりあえずアレンは「それは良かった」という返答はおかしいな、とうっすらと思った。

悪い人じゃないのよ、というリナリーのとりなしが、どこか遠くで聞こえた。
どんなに悪い人じゃなかろうと、弾き飛ばされるのはいやだ。


コムイの治療に悲鳴を上げるのはあと数十分後だ。




安らぎの日々は遠い



(神田とヒロインはまぁ基本あんな感じで)