何でか知らないけど席替えがやり直しになったらしい
(窓側席を手に入れた!)
何でか知らないけど担任の機嫌が良かった
(いつも元気で大変よろしいと言われた)(こわい)
何でか知らないけど、万札を拾った
(交番に届けた)
何でか知らないけど今日のお弁当は豪華
(母さんありがとう!)



でも、ついてない、と思う


否、
ついてない、と言えば良いのかわからない
ただ単純に、不可解な出来事。
それが、頭の中をぐるぐるぐるぐるとまわりつづける







「…、今日も顔死んでるさぁ」
「知ってるから言っちゃだめ」
「オーケイ」

赤毛をぴょこぴょこと揺らしながら、友達がよっこらせ、と目の前の席へ腰掛ける。今頃学校に来るなんて頭がおかしい、この友人は!(昼休みだってもう終わる!)机にうつぶせになりながら、は深くため息をついた。いや、だっておかしい。おかしい、おかしいこんなの。

「…質問なんだけどね。ラビってどんなときに泣く?」
「えー?」
「突然泣いちゃったりする?」

教科書を机の上に取り出している背中に尋ねれば、彼は首をかしげて、おなかがすくと悲しい気持ちになるさね、と見当違いなことを言ってきた。ああ、こんな友人が、ほんとにだいすき!

「じゃあさー」

頬杖をついてもう一度聞く。

「知らない人に会ってすっごく懐かしい気持ちになったりあまつさえ抱きしめられて嬉しくなっちゃったりする?」
ちょっと待つさそんなことがあったんか?

特に後半気になるさ、と存外まじめな顔でラビが振り向いてきたので、は気圧されて体を起こした。ラビはその分迫ってくる。

「…昨日…ちょっと…」
「見ず知らずの人間に抱きしめられたんか?」
「あー…(なんか文だけだとすごい怪しいけど実際そうだ!)」
「他には?!」
「え…何も?(あれ、うそかなこれ)」
男?
「…だね」

ラビは一拍置いて、重々しくため息をついた。

「場所教えるさ」
「えー?(何この人)」
あと警察にも行こう(痴漢よさらば!)」
「ええー」

いいよ。と首をふると、ラビは眉を寄せる。

は見かけによらずぼけっとしてるからだめさ!ていうかなんで抱きしめられたんさ?!ちゃんと抵抗したか?!大丈夫なんか?!」
「あ、大丈夫、殴り倒して逃げたから
ああ、それは良かったさ(とりあえず)(警察には行くけどな!)」


警察がどうの痴漢がどうのつぶやいているラビから目をそらして、は頬杖をついて窓の外を眺めた。


あの後。


わけがわからないままに、急に恥ずかしさやら混乱やらが沸いてきて、男を思い切り殴り飛ばして(ぐふっという声がきこえた)ぎゃーぎゃーと叫びながら走った。家にどう帰ったかもわからないし、ただぐちゃぐちゃな頭を落ちつかせようと食事をして風呂に入ってそれでも結局わけはわからないままでむしろ思い切り殴り飛ばしてしまった男のことが少し心配になったりして、とにかく混乱した。布団の上で転がってうなって、気づいたら朝を向かえていて、とにかく登校した。さすがに道に男は倒れていなかった。



(…あの人)


一体誰だというのだろう。


聞いてるさ?」
「え、ごめん聞いてない」
「……もういいさ…」

ラビが恨めしそうに此方を見て、ため息をつく。苦笑して、ごめんね、と首をかしげると、ラビはあきれたように肩をすくめた。

「いやでも、別にそれ以外何もされてないし…それに、なんていうか」

まるで夢の中の出来事のようだった

あの悪夢の延長のような
現実が、悪夢に浸食されたような

ああ、そうだ、あれは白昼夢だったのかもしれない

「…なんていうか、現実味がないって言うか…」

どうしてか悪夢のことを言うのは戸惑われて、言葉を濁した。ラビは呆れ顔で首を振る。

「そんなんだから変なやつに絡まれるさ…あー俺今日の家まで付いてくべきさね、これは?」
「え、いいよ、悪いよ」
「また抱きつかれたらどうするさ
「えっ」

それは。
昨日の情景が一気に思い出されて、頬が熱くなった。と、同時に目の前のラビの顔が一気に引きつる。

「何さそれ?!」
「えっ、いや、知らん!」
「知らんって何さ、何なんさその顔!」
「わからん!知らん!なんだろう!」
「そういやさっき嬉しくなっちゃったとか言ってなかったさ?!どういうことさ?!
知らん!

ラビがぎゅううううと眉を寄せてにらんでくる。
けれど、彼が更に矢継ぎ早に問いかけようと口を開いた次の瞬間、扉がガラリと開いて担任が入ってきた。ああ、地獄の化学!だけど今だけは天国の化学!ラビが渋々といった感じで口をパクリと閉じると、恨めしげに此方を睨んできた。思わずあはは、と引きつった笑いを浮かべる。

「後で説明するさ」
「説明するも何も…」
「どーゆーことさそれは」
「…(どうすれば)」


ガタン、といつもより大きな音を立ててラビの椅子が前を向く。
その後ろでこっそりとため息をついてから、は窓の外を眺めた。

あの男。


不可解な




抱きしめられて涙が出た
こわくてくるしくてせつなくていとしくて体が壊れそうだった



見たこともない男だったのに



風がカーテンを揺らす。




…でもどうしようもなく嬉しかったのよ…





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殴り飛ばされてましたティキ


しかも出番なくてごめん

なんだかんだでギャグ連載です、こっちは。