「くっ」 アレンは必死に身体をよじらせた。けれど、白い腕は硬く絡みつき離れない。それどころか、ずぶずぶと身体の中に侵入してくる。目を細め、アレンはその不快感に顔をしかめた。 (気持ち悪い…なんなんだこれ!) (体の中を何かに探られてる感触…!) 左腕に白い指はどんどん入っていく。左腕に力をためようと試みても、それはぴくりともしない。 (動け!!) 何度も念じる。けれど、コムイの言った通り、腕は麻痺しているのだ。 (何のつもりだあの人) コムイの能天気な声を思い出して、アレンは思わず悪態をつきそうになる。 (麻酔ぐらい……っ) (動け!発動するんだ!) 「動け!!!」 懇親の力で左腕を、対アクマ武器を発動させる。 刹那、バチンと音がしたかと思うと左腕がまるで解けるように、ほどけるように広がった。 「うっ」 左腕がぼろぼろと崩され、脳みそをかき回されるような、感覚。 「うわぁあああああッッ!!!」 あまりの痛みに、アレンは絶叫した。 左腕が、焼ける、崩れる 「アレン!」 痛みでかすむ霞む視界に、黒い手が映る。 「アレン、」 冷静な、叱咤するような声と共に、黒い手はアレンの頭を抱えた。そして左腕に触れる。 「!な…なんて子だ 麻酔を…」 狼狽したような声も聞こえる。左腕を動かそうとすると鋭い痛みが脳を貫いた。 「う"あっ」 「だめ、動かしちゃ」 うめくと、声が諭すように言った。 「し…神経がマヒしてるのにむ…無理に…発動しちゃ…ダメだ!」 白い顔が首を小さく振る。左腕の痛みが徐々に引いていった。細くあけた視界に、の顔が映る。彼女は少し安心したように微笑んでいた。 「アレン、大丈夫だから、平気だから」 「あ、…」 「落ち着いて…私は敵じゃ…ない」 の横から、白い顔が言った。そうして、自分の額とアレンの額とを合わせる。一瞬こわばった体を、の手が撫でてくれた。キィイイイィンと高い音と一緒に、声は言った。 「発動は…対アクマ武器と…適合者が ちゃんと…シンクロできてなければとても危険なんだぞ…」 言葉の意味がところどころわからないままに、アレンは白い腕と黒い腕とに身を任せた。 の手の平が頭と左腕とを撫で続ける。 「…2%…16%…」 声がカウントする。 「30…41…58…78…83%!!」 83%?思ったアレンの正面から、顔が離れていった。 痛みは完全に引いている。目を開いてゆっくりと身を起こすと、崩れていたはずの左腕が元に戻っていた。 「!」 「大丈夫?アレン」 すぐそばで、同じように白い腕に抱かれたが微笑んでいる。とりあえず頷くと、白い顔も満足げに言った。 「もう平気だろう…どうやら83%が今、お前と武器とのシンクロ率の最高値のようだ」 「シンクロ率?」 首をかしげると、白い顔が小さく頷く。 「対アクマ武器発動の生命線となる数値だ…シンクロ率が低いほど発動は困難となり適合者も危険になる…」 ゆっくりと、エレベーターの上へと身体を戻された。も軽くエレベーターの上へと降り立ち、アレンの頭をぽんぽんと軽く叩く。白い顔は申し訳なさそうに揺れた。 「おどかすつもりはなかった…私はただ…お前のイノセンスに触れ知ろうとしただけだ…」 「僕の…イノセンスを知る…?」 アレンが尋ねると、白い顔は頷く。 「アレン・ウォーカー…お前のイノセンスはいつか黒い未来で偉大な「時の破壊者」を生むだろう…私にはそう感じられた…それが私の能力…」 は無言でヘブラスカを眺めている。アレンは眉を寄せた。 「破壊…者?」 「すごいじゃないか〜〜〜〜♪」 背後で能天気な声と手を打つ音がし、と一緒に振りかえる。コムイは楽しそうに手を打ち、笑っていた。 「それはきっとキミの事だよ〜!ヘブラスカの「予言」はよく当たるんだから!いや〜〜アレンくんには期待できそうだね♪」 「…コムイ」 「コムイさん」 呆れたような顔のの隣で、アレンはにっこりと笑うと、右腕を繰り出した。 「一発殴っていいですか」 「やだな、もう殴ってるよん」 拳はコムイの持っていたボードに当たる。あっはっは、と少しも悪びれずにコムイは笑った。 「ごめんごめんビックリしたんだね怖かったんだねわかるよ〜〜ヘブくん顔こわいもんね」 「…」 ヘブラスカが若干ショックを受けたように揺れるのが視界の隅に見えた。まぁ、確かに怖い。が、気にしないでいいよ!ヘブラスカは可愛いよ!とヘブラスカの肩(なのかはよくわからないけれど)あたりをぽんぽんと叩き慰めていた。当のコムイはにこやかに、入団するエクソシストはヘブラスカにイノセンスを調べてもらうのが規則なんだよ〜と事後報告をする。 「そーゆうことは初めに言ってくださいよ!!」 「だからごめんってー」 ちっとも悪びれていない様子に、アレンの額に青筋が浮かぶ。けれど、アレンよりも先に、がコムイに蹴りを入れた。 「反省しろ」 「してるって…」 コムイがまたずれてしまった眼鏡をなおす。 「いやーが突然飛び出しちゃうから僕ビックリしたよ〜」 「アレンが腕強制解放しちゃったんだもん」 は憮然と言い、大丈夫?とアレンに尋ねる。左手を握って、アレンは頷いた。そ、よかった、とは微笑む。自分のために飛び込んできてくれたのか、と思うとアレンはありがたいような申し訳ないようなでの顔をおずおずと眺めた。彼女は気にした風もなくコムイの巻き毛を引っ張っている。 「イノセンスを無理に解放するのは危ないからねぇ〜」 コムイはに蹴られた腰を撫でながら頷き、ごめんね、とようやくちゃんと謝った。それに、いえ、と答えて、アレンは首をかしげる。 「イノセンスって…一体なんの事なんですか?」 コムイが微笑んだまま、エレベーターのふちへと寄りかかる。 「ちゃんと説明するよ。イノセンスはこれから戦いに投じるキミ達エクソシストに深く関わる話だからね」 もコムイのように腕を組んでエレベーターのふちへ寄りかかった。 戦いに、身を投じる。 アレンは表情を消してコムイを見つめた。コムイは指で眼鏡をおさえる。 「この事実を知ってるのは黒の教団とヴァチカン、そして千年伯爵だけだ」 すべては約百年前 ひとつの石箱が発見されてから始まった |