ガタガタと振動が足に伝わる。


うそだろ

アレンは眼下の光景に、任務早々世を儚みたくなった。頑張る。頑張るけどさ!

「お急ぎください、汽車が参りました」
「でええっ!?これに乗るんですか!」

汽車は、もう速度を上げ発車している。
神田が慣れた様子でその屋根へと飛ぶ。探索部隊の男も重そうな荷物をものともせずばっと飛び出した。はといえば、まだ眠そうにしながら、大きく伸びをしている。

「てめぇバカ!早く乗れ!」

神田の怒声が飛び、アレンはの手を握って慌てて屋根の上へと飛び移った。どうにか足をつき、風の抵抗のあるそこへ、必死にしがみつく。横ではしりもちをついたのか、いたた、と目に涙を浮かべていた。

「…飛び乗り乗車…」

アレンがげっそりとつぶやくと、いつものことでございます、と探索索部隊の男がなんでもない風に言った。どうやら常識的なこと、を求めるのは間違いらしい。もちろん、師匠と居たころからそれはわかっていたのだけど!

「アレン平気?」
「はい…ちょっとびっくりしたけど」

小首をかしげるに頷いて、アレンは気合を入れるべく、唇をぎゅうっと引き結んだ。









02. midnight Aria








屋根から中へ降りると、添乗員が慌てたように駆けてきた。

「困ります、お客様!こちらは上級車両でございまして一般のお役様は二等車両の方に…てゆうかそんな所から…」

真っ当な意見だ。アレンがあいまいに笑みを浮かべてすみません、と言うと、探索部隊が一歩進み出た。

「黒の教団です。一室用意してください」

この言葉に、添乗員がさっと顔色を変えた。神田の胸元へと視線を走らせ、黒の、とつぶやくとすぐさま頭を下げる。

「か、かしこまりました!」
「あ、すいません何か食べ物もいただけます?」

後ろからが言うと、それにも頷いて添乗員はぱたぱたと奥の方へと駆けて行った。それを見送り、アレンは首をかしげた。

「何です今の?」
「あなた方の胸にあるローズクロスはヴァチカンの名においてあらゆる場所への入場が認められているのでございます」

探索部隊員が丁寧に教えてくれる。へぇ、と頷いて、アレンは自分の団服を眺めた。これにそんな意味があるのか。コムイが「証」と言っていたのはこういうことだったらしい。隣でが便利よね、と笑う。

「ところで」

隊員はぺこりと頭を下げた。

「私は今回マテールまでお供する、探索部隊のトマ。ヨロシクお願いいたします」

後ろの荷物がガシャガシャと言った。

「よろしくお願いします」
「よろしくね、トマ」

アレンが頭を下げる横で、がにっこり笑った。彼は目を伏せると、では、席の方に、と添乗員が駆け戻ってきた方を指差した。



部屋は快適そうで、真っ先にが嬉しそうに席についた。添乗員から受け取った包みをいそいそと開け、あつあつのローストチキンをはさんだサンドウィッチに歓声をあげる。アレンは思わず笑ってしまった。

「アレン食べる?」

が一個差し出してくるのを大丈夫です、と断って、アレンはの正面へ腰掛けた。神田は呆れたようにの隣へ座る。はサンドウィッチをほおばって上機嫌だ。

「おいしい」

幸せそうに言う。神田が呆れ顔でそれを見ると、あげないわよ、と一気に口の中に押し込む。

「いらねーよ!」

神田はイライラと顔を背けて資料に目を落とした。まだ半分も読んでいない。

「で」

アレンは資料をめくりながら目の前の神田を上目に見上げた。

「さっきの質問なんですけど」

古代都市、マテール。今はもう無人化したその町に亡霊が住んでいる。その亡霊はかつてのマテールの住人、孤独を癒すため町に近づいた子供を引きずり込むという。
これが、今回の探索部隊の調査の発端だった。

「何でこの奇怪伝説とイノセンスが関係あるんですか?」

アレンが首をかしげると、神田が横に視線を走らせた。は二個目をもそもそと食べながら神田を見返す。

「食事中(もごもご)」
「チッ」

神田が面倒臭そうに座りなおし、窓の外を眺めながら言った。

「イノセンスってのはだな…」
(今「チッ」って舌打ちした…)
「大洪水から現代までの間にさまざまな状態に変化している場合が多いんだ。はじめは地下海底に沈んでたんだろうが…その結晶の不思議な力が導くのか、人間に発見されいろんな姿かたちになって存在していることがある…そして、それは必ず奇怪現象を起こすんだよ。なぜだかな」

神田が資料を指先で弄くりながらわかったか、と言う。

「じゃあ、この『マテールの亡霊』はイノセンスが原因かもしれないってこと?ですか?」
「ああ」
「たぶんね」

が隣から口を挟んだ。

「『奇怪のある場所にイノセンスがある』」

彼女は口の端にまだパンくずをつけたまま、指を一本立てた。コムイの真似らしい。

「だから、教壇はそういう場所を虱潰しに調べて、可能性が高いと判断したら俺たちを回すんだ」

と神田交互の話にへぇ、と頷いて、アレンは自分の資料に目を落とした。

(奇怪…)

資料にはイノセンスの説明も若干載っている。不思議な結晶だな、とアレンはページを捲った。そこにあるだけでも影響を及ぼす程のエネルギーがあり、「適合者」が持てば対アクマ武器ともなる。
ならば

(マテールの亡霊って一体何だ…?)

「へぇ」

が声をあげた。アレンも目を見開き、神田は眉をぴくりと上げる。

「これは…」
「そうでございます」

外からトマの声がする。中の様子を察したらしい。三人が戸へ顔を向けるとトマは続けた。

「トマも今回の調査の一員でしたので、この目で見ております。マテールの亡霊の正体は…」







神の力を手にするは



(トマさんてかわいい)