「いやーごめんねっ!徹夜明けだったもんでね」 「オレもっスけど!」 リーバーに蹴られ、リナリーになだめられ、に笑われ、アレンに呆れられ、神田にバカにされ、ようやく正気に戻ったらしいコムイはいっそ清清しいほどの笑顔で笑った。リーバーがすかさず突っ込みを入れる。 「さて、時間がないので粗筋を聞いたらすぐ出発して。詳しい内容は今、渡す資料を行きながら読むように。は即刻リナリーから離れるように」 「イヤ」 がリナリーと手をつないだままにこにこと笑う。コムイはうらめしそうに二人を眺めて、重々しくため息をついた。 時間がなくなったのは一体誰のせいなのか… 思いながらも、促されるままにアレンは手渡された資料を見下ろした。や神田にも同じものが配られる。そうだ、とアレンは同じ任務に… 神田とアレンが同時に顔を上げた。視線がかち合う。まさか。 「三人トリオで行ってもらうよ」 コムイが機嫌よく言った。が嬉しそうに了、と返事をしながら資料をめくっている傍らで、神田とアレンはそろって顔をしかめた。なんでよりにもよってこいつと、と多分お互いが思っている。コムイはなぜか楽しそうに、何ナニ?もう仲悪くなったのキミら?と首をかしげた。 「でもワガママは聞かないよ」 コムイはさっと手を伸ばし、壁にかけられた資料を広げる。イタリアの地図。 「南イタリアで発見されたイノセンスがアクマに奪われるかもしれない。早急に敵を破壊し、イノセンスを保護してくれ」 イノセンス。 アレンは目を見開いた。 「現地にはアクマが集まっているらしい…探索部隊でどれだけもつかわからない」 頼んだよ。と、言うコムイの顔は真摯だった。 「早速出発してくれ、あとはさっさとリナリーから離れるように」 イヤ、と、隣でが微笑んだ。 リーバーとリナリーに促されるまま、地下水路へと案内される。 「ちょっと冷えるね」 薄暗いそこで、の声は良く響いた。リナリーが大丈夫?と首をかしげている。神田はさっさと船へ乗り込んでいた。 「あ、アレンくん、これこれ」 続いて乗り込もうとしたアレンはコムイに呼び止められた。首をかしげると、コートを手渡される。着てみて、といわれるままに羽織ると、それはわずかに大きかったが、神田やの着ているような団服だった。 「あー、ちょっと大きいね」 「これ着なきゃいけないんですか?」 自分の姿を見下ろしながらアレンが尋ねると、コムイは頷く。 「エクソシストの証みたいなものでね。…目印っていうのかな」 目印?思いながら、アレンは受け取った手袋にも手を通す。 「戦闘用に造ってあるからかなり丈夫だよ。あと左手の防具はボク的に改良してみました」 コムイが機嫌よく言う。礼を言いながら船に乗り込むと、ふと袖口に違和感を覚えた。もぞもぞと何かが這い出てくる感覚、果たして、姿を現したのは行方不明だったティムキャンピーだった。 「ティムキャンピー!どこ行ってたんだお前!」 船がゆっくりと動き出す。離れた岸で、コムイがリナリーやリーバーと一緒に手を振っていた。 「ティムキャンピーには映像記録機能があってね。キミの過去を少し見せてもらったよ」 だから徹夜しちゃったんだけど、と声は笑む。コムイは手を大きく上げて親指を立てた。 「行ってらっしゃい」 その声は暖かく水路に響く。アレン左手を握り締めた。 忙しい中、この防具も、自分のために作ってくれたのか。口元に笑みが浮かぶ。 「行ってきます」 答えた自分の声は、思っていたよりも嬉しそうに響いた。 本当はとても不安だけれど、それでも、彼らのために、世界のために、マナのために。アレンが左手をぎゅうと握ると、がアレンの頭を優しく撫でた。 「頑張ろうね」 いたわるような瞳があたたかい。昨日のヘブラスカの時のことを不意に思い出した。ああ、この人は、変な人間だけど、おかしいけど、でも、 アレンは微笑んで頷いた。 「はい!」 神田がいらだったように、舌打ちをしていた。 |