「お、来たな」 「ご飯ちゃんと食べれた?」 司令室へ入ると、リーバーが書類を持った片手を上げた。となりでリナリーも微笑み首をかしげる。頭を下げ頷くアレンの横で、神田がほらよ、と後ろのを前に突き出した。彼女は依然、寝息を立てたままだ。リーバーはあー、と呆れたようにつぶやくと、ごくろうさんと微笑んだ。 「こいつなかなか起きないんで、びっくりしたろ、アレン」 「…少し…」 「そうだよなぁ」 アレンが頷くと、悪いな、俺手が離せなくてさ、とリーバーは笑う。そうして、の身体をずりずりと引きずると、その頭をぽんぽんと撫でた。 「起きろ、」 「…(いや、それじゃ起きないと思う)」 アレンの無言の突っ込みをよそに、リーバーは起きろーとの頭をぽんぽんぽんと撫でる。アレンは次の瞬間を目を見開いた。がゆっくりと身体を起こしたのだ。 「!!」 「…ねむい」 は床に座り込んだままつぶやく。リーバーは苦笑して、悪いな、でも任務だ、とその肩をあやすように叩いた。驚いているアレンにリナリーがこっそりと、はリーバー班長が声かけないと起きれないのよ、と耳打ちしてくれた。不思議だ。 「にんむ…」 空ろな表情で周りを見回してから、はもう一度にんむ、とつぶやき大きくあくびをして後ろ頭を掻いた。 「任務…?」 「起きろうぜぇな」 神田がの背中に蹴りを入れる。衝撃でつんのめってから、は背中越しに神田をにらんだ。 「神田…」 「起きろ」 「起きたわよ」 恨めしげに神田を見上げ、はよっこらせと、よろけながら立ち上がる。それからぐいと伸びをした。どうしても眠気が取れないらしく、あくびを繰り返す。と、リナリーとアレンとをはじめて視界に捕らえ、にっこりと笑った。 「リナリー、アレン、おはよー」 「おはよ、」 「ん〜リナリーッ!」 がリナリーをぎゅうと抱きしめる。リナリーも笑いながらぎゅーとエンの背中に腕を回した。仲が良い。 「お、はようございます」 苦笑しつつ言うと、はアレン、と微笑み頭を撫でた。と、不意に目を見開いた。すぐ傍で書類をざかざかと漁っていたリーバーの肩を叩く。 「班長、任務ってアレンと一緒?一緒に行けるの?」 「ああ」 「え?」 そうなんですか?アレンもたずねると、リーバーは手に何本もの資料を抱えながら、詳しいことは室長にな、と笑った。 こっちよ、とリナリーが示した奥の部屋はひどく荒れていた。荒れていたと言うより、床中にさまざまな紙が散乱していて、足の踏み場がない状態になっている。その中心で、机にうつむくようにしてコムイがぐぅぐぅと寝息を立てていた。も神田もリナリーも、慣れたようにずかずかと書類の上を歩いて机へと近づく。アレンも恐る恐ると紙を踏みしめ続いた。(これ重要書類じゃないよな?) 「室長!」 真っ先に机に近づいていたリーバーが声をかけながら身体を揺さぶった。起きない。 「コムイ室長!」 殴った。起きない。 (再来…!) 「ここってそういう人ばっかりなんですか…?」 「いや、そういうわけでもない。コツがあるしな」 アレンが恐る恐ると尋ねると、リーバーが首を振った。そうして、コムイの耳元に顔を寄せる。 「リナリーちゃんが結婚するってさー」 小さなささやきに、けれど、コムイの肩がびくりと動き、次の瞬間、彼は跳ねるように起き上がった。 「リナリィィー!!!」 「?!」 「お兄ちゃんに黙って結婚だなんてヒドイよぉー!!!」 コムイが錯乱したように泣き喚きながらごろんごろんと床を転がる。リナリーは耐え難いと言うようにうつむき、その姿を視界に入れないようにしていた。 「悪いな、このネタでしか起きねェんだこの人」 「………(覚醒マスター!)」 慣れたもんだという風なリーバーにアレンは思わず尊敬の意を向けた。この人、覚醒マスターだ!はあははと笑いながら、なんだか班長って覚醒マスターね、とアレンの思考を読んだかのようなことを言っていた。それなら彼女は熟睡マスターだということを、自覚しているのだろうか。 「よし、本題に入るぞ!」 リーバーはてきぱきと資料を壁に書け、手を打った。 どう考えたって、この部屋の中で今最も室長足る存在だったのは、床で転がっているコムイでなく、リーバー・ウェンハム、その人だった。 |