同時刻、地下通路入り口にて 神田は唇をきつく噛みしめた。 最悪だ。 「に"っ、逃げやがった…!!」 かすかに目をはなした、その一瞬 その一瞬の隙に、人形と少女の姿は――… 「くそっ」 消えたイノセンス。 空になった暗い通路に、むなしく神田の舌打ちが響いた。 02.midnight Aria the song of their deep sorrow ほんの少しの間だった。 ティムに集中した、そのすぐ後。 (そういえばあのゴーレムはどこにいった?) 最悪だ最悪だ。 そうだ、考えればあれだけ心臓を奪われることにおびえていた二人が、素直に囚われているはずがないのだ、どうして目を離したのだろう。 (あのバカ女のバカがうつったッ!) 残念ながら、バカは元からだと突っ込んでくれる要員はどこにもいない。 「あいつらどこに…」 アクマの能力の分析はある程度できたものの、イノセンスが消えたのでは話にならない。脳裏にが自分を指差し大笑いしている図が浮かんだ。ちくしょう。 「地下通路内に逃げたのでしょうか…」 後ろでトマが呟く。 目の前の通路は暗く先が見えない。 (地下通路…) 神田は眉を寄せその先をにらんだ。 そうだ、あの少女の言葉から考えるに、人形たちは入り組んだ地下通路の何処かに身を隠そうとしているのだろう。人形はこの通路を熟知している。 人形がいなければ、「迷うだけ」、その言葉通りとするならば、今追ったところで地理的に圧倒的に不利な自分達が迷ってしまうのは必至だ。そこで時間をロスすればみすみすアクマにイノセンスを渡すことなりかねない。それならば、同じように地下通路に精通していないアクマを発見し、破壊するのが先決。 そこまで考えて、トマ、と神田は後ろの探索部隊員を呼ぼうと口を開いた。 のだけれど。くいくいと無言で団服を引っ張られる。 「?何…」 「神田殿、後ろ…」 後ろ? 言われるままに振り返る。 そこに見た姿は 「!モヤシ…?」 白髪、その下の頬に走る傷。確かにそれは、数十分前に別れた新人のもの、けれど (…じゃ、ねぇな) 位置を除いて。 神田は、ハ、と息をついた。まさに、噂(?)をすれば、だ。タイミングが良い。 (アクマか) 「…カ…カ…ンダァ…」 よろよろとふらつきながら、それはゆっくりと喉を震わせた。 左右逆、と呟きトマが横で後ずさる。 なんともお粗末な化け姿だ。弱点をぶらさげ、それを隠すことも無くのこのこと敵の目の前に現れるなんて、知能はLv1と同等かもしれない。こんなアクマにやられた新人とやらの実力を疑ってしまう。 (だが…) 神田は六幻に手をかけた。 探す手間は省けた。 「どうやら、とんだバカのようだな」 刀を構えると、スゥ、と六幻は仄かな光を放つ。 アクマはパクパクと唇を振るわせた。どうやって探ったかは知らないが、カンダ、とアクマにその名を口にされるのにはとことん不快しか覚えない。 アクマは破壊する。 「災厄招来!」 界蟲一幻ッ!!! 「無に還れ!」 はらわれた刀から一気に蟲が散る。 アクマの身体がのけぞり、その目に絶望を映した。 けれど 「!!」 蟲はアクマの身体に届くよりはやく、破壊音を響かせ弾かれる。 アクマの身体が傾いだ。 「ウォ…ウォーカー殿…」 アクマの身体を庇った、六幻と同様の仄かな光を放つ巨大な腕、その先から壁に空いた穴から死んだとばかり思っていた顔が覗く。アレン・ウォーカー。 続いて穴の中から、出口!と能天気な女の声も聞こえた。耳障りなほど元気が良い。 (……無事だったか) 小さく息をついた神田の目の前でけれど、新人は倒れ付したアクマを抱き起こした。元帥も、まったくとことん、使えない奴を教団に送り込んでくれたものだ。 「キミは…?」 「モヤシ!」 「神田…」 此方に気づいた新人の眉は訝しげに寄せられている。 「どういうつもりだテメェ…!!」 訝しむなら此方のほうだ。 「なんでアクマを庇いやがった!!!」 (アクマ…?) 神田の言葉に、アレンは自分の腕の中に視線をおろした。アクマはか細い息を繰り返し気絶したようだった。止めを刺すなら今だ。しかし、アレンは小さく首を振った。 「…神田、僕にはアクマを見分けられる『目』があるんです」 この人は、と一拍おき、神田を見上げる。 「この人はアクマじゃない!」 「?!」 神田は眉を寄せた。アレンは再びアクマ、へと目を落とす。そこに、不自然に入った亀裂を見つけた。頬に走る一閃。いやな予感がする。右手をその傷へ伸ばし、まるで皮むきでもするかのように、その皮膚をびりびりとはがした。現れたその顔に、アレンは息を呑んだ。 それは、今アレンの腕の中にいるはずのないもの 今彼がここにいるのならば、仲間の背後にいるのは 「うしろのトマがアクマだ、神田!!!」 アレンが叫ぶよりも一瞬早く、神田の背後のトマの右腕が伸びた。 刀を構えるまもなく、神田はトマ、否アクマに殴り飛ばされ、壁を突き破る。武器が神田の腕を離れ飛んだ。これでは、神田がアクマに手打ちできようもない。 「かっ…神田!!」 「ア、アレンッ!」 「ぐぇっ!」 けれど神田を追おうとした途端、アレンの首根っこを穴から出てきたの腕が掴んだ。そうだがいたんだ、なんでこの人はいつまでたっても穴から出てこないんだどうしたんだ 「ちょっ、、苦しいですよ!大変なんです、はやく出てきてください神田が…っ」 「出たい!出たいわよ!私だって今すぐ出て神田の阿呆面を笑ってやりたいわよ!」 「(だめだこの人全然状況読めてない!)」 穴からはの手の先しか出ていない。覗き込むと、彼女は腕をぎりぎりまで伸ばした状態でうっすらと目に涙をうかべ、アレンを見た。 「は、はまった…ッ」 「…」 「…」 (……………) |