トンネルに入って十数分。 ああ、なんてこと。 「…やっぱりさ…」 「なんですか?」 「…迷った…と思うのよ」 「!!」 迷った。 アレンの歩みが止まる。も後ろで同じように立ち止まると一拍置いて、アレンの泣きそうな声がきこえた。 「どうしましょう…?」 「どうしよう…」 アレンも、気づいてはいたらしい。 ジーザス! まず自分達が居る場所がおかしい、とは思った。入口は暗かったものの石造りでしっかりしており、かつて地下通路として使用されていたのだろうとは容易に知れた。そのためにはじめのうちこそ必ずどこかにつながっているだろうからとずかずかと躊躇なく進んでいたのだ。それが今。なぜこの道はこんなに狭く暗く湿っているのか。なぜ歩いて入ったはずなのに、 今四つん這いになっているのか。 「…アレンて方向音痴?」 「っはじめはが先頭だったでしょ?!」 アレンが言い返すと、 はがっくりと頭を垂れ、はは…と力無く笑った。 「…私は…方向音痴…」 「!!(じゃあなんで先陣切ってあるいてったの?!)」 二人が同時に押し黙ると、静けさが重くのしかかって来る。それに堪えられなく なり先に声を上げたのはアレンだった。あああっ! 「むやみやたらに動くんじゃなかった…!ここすごい迷路だよっ!こんなことしてる場合じゃないのにー!!」 つられて、もうぁぁっ、と声を上げた。 「神田ァー!先帰ったりしたら泣くわよこんにゃろー!!(ありえる気がしてこ わ い!)」 二人でひとしきり声をあげてから、再び沈黙する。アレンが、ティムがいてくれたらなぁと泣き言を漏らした。 は四つん這いになった自分の手の平を見下ろした。泥がついて汚れてしまっている。 (…神田大丈夫かな…) 置いてかれる云々は冗談(で済むことを祈る!)として、彼の安否は心配だった。神田の実力のほどは良く知っているのだけど、道すがらアレンからきいて推測できたアクマの能力は厄介だ。 (擬態能力ね…) 神田ってバカだしねと本人がきいていたら抜刀しかねないようなことを考えながら息をつく。アレンも深く溜息をつくとずりずりと再び前進しはじめた。 「…」 「んー?」 「また二岐ですよ」 「じゃ、右で!」 「じゃあ左で」 「ちょっと」 アレンの左足を軽く叩いて突っ込むと、アレンは冗談ですよといいながら左に折れた。ちょっと待て。なにさ、と少しふてくされながらとりあえずアレンに続く。と、はふと首を傾げた。 「アレン?」 「なんですか?」 「…なんか変な音がしない?」 「変な音…?」 アレンの声に不安が過ぎった。当たり前だ、さっきの「変な音」の後に待っていたのは落下だったのだから。はけれど首を傾げ壁にびたりと耳を押し付けた 。何かがバリバリと削れ、砕かれているような音。 「何か近づいて来てる…」 「何か?」 アクマ、ではない気がする。殺気もない、随分と小さいものが壁を突き破ってくるような… は眉を寄せて音を探った。アレンが何ですか?とたずねてくるのにどうにか答えようと口を開閉する。が、そもそも、何か小さなものが壁を突き破ってくるなんて状況、そうそうない。ううう、と唸り考えた結果、 答は出すよりも先にやって来た。 やってきたというよりも、衝突してきた。 何かが壁を突き破りアレンの頭に激突したのだ。 「!!」 「?!」 自然、アレンの頭は衝撃に従って反対側の壁へ激突する。一瞬の間を置いてから 、は意識が朦朧としているらしいアレンの肩に止まっている それ をつまみあげた。 「ティムキャンピー!?」 羽を掴まれたのが不満らしくギィギィと唸るゴーレムがの眼前に姿を見せる。ティムが出てきた穴を見るとちょうどその体がすっぽり入る程の大きさだ。自分の指につままれたティムがペッと瓦礫を吐き出したのを見て、は弱々しく微笑んだ。 「お前すごい機能がついてるのね…」 指をかじられたら、それこそ笑えない。 「ぅう…」 「!アレン!」 意識をどうにか取り戻したらしいアレンが頭をふりながら顔を上げた。その視界にの手から離れアレンの肩に触れたティムをとらえたのか、眉を寄せたままぼんやりと首をかしげる。 「ティムキャンピー…?」 「か、壁つきやぶってきたのよ」 「(まじで?!)」 が手を伸ばし頭を撫でてやるまだとアレンは痛むらしい額をさすりながらティム〜〜と恨めしい声を出す。アレンの手のひらに乗ったゴーレムは、飄々と尻尾を揺らしどこふく風だ。アレンは諦めてため息をつくしかない。 「こんなとこに来るなんて、主人のいるところはちゃんとわかるのね」 後ろからアレンの手元を覗き込んでが感心したように言う。ティムキャンピーは確かに、教団のゴーレムよりもはるかに性能がいい。感情のようなものすら持っているように思う。だからこそ、たまに扱いにくいのだけど。ティムは反省の色ないまま、つとその短い手を上げた。 「…なに?」 が首をかしげる。 「こっちに行けば良いのか?」 そうだ、とせかすように髪を引っ張られて、アレンはため息を着いた。 「衝突云々はおいといて、お前が来てくれて助かったよ。このままじゃ初任務でいきなり遭難するとこだった」 「初任務で遭難!あはは思い出になるね!」 「………」 「…………………ごめんなさい」 「嫌だな、僕なにも言ってませんよ、あはは」 「……!」 黒!アレン黒い!こ、怖い!方向音痴でごめんなさいでもしょうがないじゃないちくしょう凹む…うなだれたのぼやきをさらりときかなかったことにして、アレンは行きますよ!と前進を再開した。 黒いだなんてまさか (はっはっは) |