「ちょっといい加減にしてよ帰ってよ失せてよそして出来れば腹痛に悩まされればいい足と言う足が脱臼すればいいそれは私が追っかけてんだから一体これ探すのに何日かけたと思ってるのこのまま手ぶらでなんて私絶対帰りませんから絶対渡さないから渡すものか断じて!」
「うるせぇなお前千年公知ってるかあの人が怒るどうなるかふざけんなよこえぇんだよ食われるかと思うわあんなんだからイノセンスは俺のものです帰りません失せません腹もいたって快調です足もいたって強靭ですノアなめんな」

息継ぎもなしで言い切るとお互いゼェゼェと肺が悲鳴を上げた。そうでなくても全力疾走数十分は肺にこたえる。神の使途だという女はけれどイノセンスに守られた強靭な肉体を持っているのかすぐに息を整え速度を上げた。化け物か。負けるものかと此方も自慢の長い足に鞭打って廃墟の瓦礫を飛び越え、壁をすり抜ける。ずるいと女が声を上げたけれど知ったことか。

「最悪だこちとらようやく見つけたイノセンスが逃げてくだけで腹立つのにさらにこんなおっさん相手ってもうアホか腹立つ腹立つ腹立つ」
「お前がイノセンス猫に食われたりするからだろふざけんなよ全部お前のせいだって俺だって腹立つっつのあと俺おっさんじゃないからふざけんな」

もうここまで来ると意地だ。お互い息も苦しいだろうにを罵倒合戦はとまるところを知らない、いつもどおり。
猫はなまじ体が小さい分瓦礫の小さな隙間、目に付かないような小さな通路に入っていってしまうものだから追うのが難しい。その腹の中のイノセンスを取り出さなくてはいけないのに。

「ほんとなんで毎回毎回任務のたびに会わなきゃいけないんだろうさてはお前私に惚れてんな火傷するぞ!」
「寝言はベッドで言えって痛いから」
神よー!!

乙女に恥じかかすこの男に天罰とか雷とか落としてくださいなるべく痛いやつ!女が大げさに手を天に向ける。走りながら。器用なやつだ。
ティキは地を大きく蹴って飛び上がった。猫が少し先を必死に走っているのが見える。この距離なら一気に加速すれば手が届く。幸い、女から猫の姿は見えてないようだし。足に力を入れ、大きく足を伸ばして、猫へ近づく。ああ、手が届く。

「そのまま猫に触ったりしたらこの前の綺麗なひとの前で私とのことは遊びだったんだなコノヤロウって騒いでやるぞコノヤロウ」

ああ、手が
小さな横道に猫がそれる。曲がりきれなかったティキの体はそのまま近くの壁に激突した。痛い。横を女がすり抜けていく。

「便利な能力があるのに、ずいぶん器用なことするのね」

すれ違いざまに、憎らしい一言を吐いて。ティキは上に乗っかった瓦礫を力いっぱい飛ばして起き上がった。ちくしょう。
すぐさま女の背中、いや違った、猫の姿を追う。

「なに、お前妬いてんの」
「ま さ か !(ていうか速いなちくしょう!)」
「あれは、あれだよ、お前、そういう仕事の人だよ」
「知らないよ!(なんだよ!)」

女がオリャーと雄たけび(?)を上げながら猛然と加速した。妙におかしくなってきて、ティキはくくと喉を鳴らしながら同じように速度を上げた。女のすぐそばに寄ってみる。

「妬いたのか」
「妬いてない!(ていうかほんと速いなちくしょう!)」
「さてはお前俺に惚れてんな火傷するぞ」

今度は女が角を曲がりきらずに柱に激突した。ここぞとばかりに速度を上げて猫を追う。一拍遅れて後ろで爆発音がした。次いで、ドドドと近づく轟音。

「 死 ん で ! 」
「嫌だよ」

少し後ろに見える女の髪はボサボサで、まだ瓦礫のかけらがくっついている。顔は真っ赤だし。思わず笑うと、その眉がキリリとつりあがった。そのまま口を引き結ぶとダダダとティキの横を抜けていく。ティキも負けじと加速した。また、女が速度を上げる。猫は軽やかに小さな穴をくぐっていった。あっちも必死だ。もうそろそろ決着をつけときたいんだけど、と横目で見た女はいつのまにか手に武器を握っていた。

「アレ、くれたら」
「は?」
「ちゅー、したげる(かもしれないよ!)」

目の前の瓦礫にけっ躓いた。ああ、我ながら器用だ!ていうかなんだその()は!倒れながら思う。女はティキが倒れた一瞬の内に握った刀で猫が入っていった穴を破壊すると飛び上った。衝撃に驚いた猫が小さなくぼみに縮こまっているのがティキの視界に入る、次の瞬間顔面をしたたかにうちつけた。(痛い)

起き上がったときには、女は満面の笑みでその手に猫を抱えていた。口にイノセンスがはまっている。ああ、間抜けな面だな、飲み込めなかったんなら吐き出しておいてくれよ!ティキは引きつった笑みでそれを眺めた。

「私の勝ちよ」

ふふん、と得意気に勝ち誇った笑みを浮かべた女は座り込むと、早速猫の口に手をかけた。結構容赦が無い。猫は白目を剥いている。お疲れだ。お互いの乱れた呼吸の音が聞こえる。ティきもどっかとその場に座り込んだ。

「お前みたいなの、なんて言うか知ってるか?」
「聖女」

どの口が言うんだ。

「卑怯者」
「違うわよ」
「じゃあうそつき」
「策略家なの」

だからどの口が言うんだ、バカの癖に。
イノセンスは猫の口にがっことはまってなかなか取れない。どおりで、さっさとこれを離して逃げなかったはずだ。ティキは小さく首を傾げてから、夢中になって猫と、正しくは猫の口と格闘している彼女ににじり寄った。

「うそつき」
「違うってば」

そ、っと猫に手を伸ばす。気づいた彼女が顔を上げたときにはもう逃げ場が無いほど、ティキはすぐそばにいた。ちゅう、と幼い音がする。はさまれた猫がぶみゃ、と鳴いた。

「ほら」

顔を離し、能力を使ってとりだしたイノセンスを、目を見開き固まった女の目の前に差し出してやった。虚ろにそれを受け取ってから、彼女は一気に真っ赤になる。面白い。

「なに…っ」
「そういう取引だろ」

ティキは笑って、もう一度、今度は額に唇を寄せる。途端、腹部に鈍痛が走った。ぐふっ

死ね!

ばたり、とティキは後ろ向きに倒れる。

でもイノセンスはありがとうございます(お礼はちゃんと!)」

異常なほどの小声と早口で女は言い捨て、全速力で駆けて(逃げて)いった。またお世辞にも上品とはいえないような、轟音と共に。

「……」

しばらく無言で空を見上げてみた。風が吹く。横で、猫がみゃぁとへたり込んだ。

「…あいつ面白いよなあ」

とても機嫌が良かったのに誰も話しかける相手がいなかったから猫に語りかけたら、彼(彼女か?)は疲れきったように目を閉じて、小さくぶみゃ、と鳴いた。
自然、唇に笑みが乗った。

「あー疲れた」

こころから

瞼を風が撫でる








「ティキ、起きて」
「…」
「ティキぶっさいく」
「…………」
「よだれたれてる髪チリチリ寝言がうるさいあと寝相がすごい無様」
「…………」

起きないし、と大きなため息をつき、けれどその態度とは裏腹にどこかウキウキとした様子でティキの口と鼻とに濡れタオルを置こうとした彼女に、観念してようやく身を起こす。殺す気か。

「あ、起きた?チッ!」
「起こされたの、チッってなんだ」

危ない危ないと額の汗をぬぐう。ティキの布団のすぐそばに座り込んでいた彼女は、私もう行くから、と腰を上げた。「行ってきます」と、それを言いに来たらしい。こういうところがやけに律儀だ。ただ、時計を見ればもう優に9時はまわっている。行くから、じゃねぇから、もう授業始まってっから。

「…わかった」

とりあえず返事をして、もう一度身を横たえ、深く息をついた。懐かしい、夢を見た。

「…行かないでいてあげようか」
「良いよ」

何かを悟ったのか感じ取ったのか、また座りなおそうとするに、構うなと手をふってやる。

「遠慮しなくて良いわよ」
「いや、してないし」
「バッカ、遠慮するなって!」
「いや、してないし」
「良いよ、大丈夫、今日は休んであげる!」
「いやお前行きたくないだけだろこれ以上バカになってどうする」

言った途端顔にビチャリと濡れタオルが飛んできた。このやろう。手でタオルをずらしてうかがうと、まだ煮え切らないのか腰を上げかねている。

「行ってきな」
「んー…」
「大丈夫だから」
「ほんとに?」

瞳が揺れた


「さてはお前、俺に惚れてんな火傷するぞ」

ふざけて言ってやった。

「寝言は寝て言うものだよ、ティキ」

案の定一笑に付された。そりゃそうだ。
だけれど腹の中は何かぐつぐつと言っていて、寝返りを衝いて背を向けてやる。ケラケラと笑ったは、何よとまたにじり寄ってきた。早く行けって。

「そんなこと言って、さてはティキ、私に惚れてんな火傷するぞ!」

ああ

「そうだよ」
「!」



一拍置いて、ガタガタとすごい音を立てながらが立ち上がり、部屋を出て行ったのがわかった。階段を下りる音に続いて玄関の戸が閉まる音。

窓から覗くと、真っ赤な顔をしてものすごい速さで走っていくが見えた。あ、じいさんを轢いた。危ね。

前が見えていないらしい彼女に少し笑って、それから小さく息をついた。
また手に入らない




あの日はもう遠い






終わる世界の
をみた




またまとまりのない!!
本編が進んでいないのでわかりにくいことこの上ないですね…
申し訳ない!ていうかリクエストに添えて…ない…気が

おお力不足…
でも書いてて恥ずかし楽しかったです!

赤羅さん、リクエストありがとうございました!!