唐突な訪れだった。 「どーもどーもー」 「?!…な、にやってるんですか…」 突如として響いた声、次いであらわれた姿に、アレンは目を剥いた。 だ。 不法侵入ですよ、というアレンに良いから良いからとは片手をひらひらとふった。全然良くない。ベッドに腰掛けたまま固まってしまったアレンの目の前で、はよっこらせと窓枠に足をかけた。ここは教団のアレンの自室だ。(一体どうやってのぼってきたんだ!) やってること(不法侵入)のわりに丁寧に靴を脱いで窓枠の上にぽんと置いてから、はアレンに向き直った。妙な格好をしている。 「…誰か殺してきたんですか」 「なんでよ!」 「だってあかい…」 「そういう服だよ!」 言いながらが自分の服を両手でぐいとひっぱった。団服の下はいつも黒だったはずなのに今日はなぜか赤だ。彼女に限って、その色はどうしてか不吉に見える。神田あたりを殺ってきたのかと思ったのだけど違ったらしく、彼女はまったく、と首を振った。 「サンタよ、サンタ」 「サタン?」 「ほんといい加減怒るわよアレン」 はサーンータ!と声を張り上げると、後ろに背負っていた白い袋をよっこらせと降ろした。 「サンタ…って、団服の下が赤いだけじゃないですか」 「しょうがないじゃない、間に合わなかったのよ、完璧なサンタの衣装までは」 でもぼうしはあるのよ。通販で買ったの。言いながら、は袋を探り赤いご機嫌な帽子を取り出した(通販?)。それをなぜかアレンにかぶせる。 「よし、これでアレンもご機嫌ね!」 「なんかもうご機嫌なのは(の頭の中)だけですよ…」 「どうしたのアレン、疲れてる?なんか黒モードだし」 はうなだれたアレンを見て首をかしげた。なんでかって? 「知りたいですか…?」 「え(なにこのムード)」 「コムイさんにかりだされてたんですよ」 アレンがにっこりとほほえむ。 「任務のために呼び出されたにもかかわらず姿を消した誰かさんを探すためにその誰かさんと神田との交戦によって倒壊寸前になった彼女の自室を片付けるために更には彼女とジェリーさんとの交戦のために一時閉鎖に追い込まれた食堂の修復のためにちなみにぼくだけでなく教団中の人がそれにかりだされてましたよこのクソ忙しいなかしばらくは教団内での襲撃に気をつけてくださいね☆」 「ほんとごめんなさい」 床にべたりと這い蹲るようにして頭を下げたを見て、ため息をついてやる。 (クリスマスか) そうだ、ただでさえ感傷的になってしまう日なのに、まったくなんだっていうんだ。任務は緊急のものと言うわけではないから良いとしても、食堂が壊滅していつもどおりの食事ができないのは、アレンにとって死活問題だ。 「…その袋の中、何が入ってるんですか」 「え?これ?」 「なんかケーキとか入ってないんですか」 「!よくぞきいてくれた!流石アレンね!」 「え」 「あるのよ〜ケーキ!アレンのために!」 待ってましたといわんばかりに、がうれしそうに再び袋を探った。少し期待してしまう、特に胃が。けれど、取り出されたその手の中を見て、アレンの顔は期待の赤から絶望の青にかわった。 「ケーキ!」 「それケーキじゃないです『なんか黒いもの』です」 「ケーキ!」 「それケーキじゃないですそれがケーキならその団服だってケーキです」 「ケーキ…」 「…」 アレンは恐る恐るその『なんか黒いもの』いやちがった『ケーキ』(仮)を手に取った。『ケーキ』(仮)は透明な袋に包まれているにも拘わらず何か(胃液的なものが)こみあげてくる匂いをあたりに散らしている。顔の高さまであげてみるとブスブスと音を立てているのもわかった。 「…ケーキ」 「…じゃないですよ」 突っ込みも力が入らなくなる。 はニコ、と弱弱しい笑みを浮かべていつのまにか取り出した小さな手持ちラッパをプヒプヒと鳴らした。その奇妙な明るさは今の空気に極端に焼け石に水だ。 「アレンに愛を込めて☆手作りにメ〜リィクリスマァ〜ス」 「…」 手作り。彼女とジェリーとの交戦の理由がわかった気がして、アレンはまだぬくもりの残る『ケーキ』(仮)を見下ろした。焦げ付いたそのかたまりのはじっこにかろうじて、Allenとデコレートしてあるのが見える。 このケーキ(仮)。 手作りの悪意と見るべきか手作りの愛と見るべきか。 の顔を見て、ため息をつく。 悪意…なわけないとわかってはいるのだけど。 そんな悲しそうな顔されて、一体どうしろって言うんだ。 メリークリスマス 養父の顔がちらちらと浮かぶ。 あのあたたかさを。 はぁ。 「!アレン?!」 「…ッ」 意を決する。ジーザス、誕生日にめんじて、命だけは助けてくれよ! とりだした黒い塊をいっきに口に詰め込み、味わうよりも早く飲み下す。ああ、なんだこの喉越し。すきっ腹にはきつい! 「…か、身体に悪いわよきっと?」 (作っておいて!) 不安そうにが言う。 こみあげるいろいろ、をやり過ごしてから、アレンは顔を上げた。 「…ごちそう、さまでした」 それから 「メリークリスマス…」 呟いたアレンに、はひどく安心したように微笑んだ。 「もー、アレンはかわいいなぁ」 なんだそれ。 ああ、反則だ。 「…コムイさん探してますから、早く行ったほうがいいですよ」 「え、あ、うん」 そうね、言いながらは袋をよっこらと背負ってまた窓枠に足をかけた。どうやって帰るのかと思ったら、はやくしろさ凍えちまうさ〜と能天気な声が外からきこえてきた。トナカイの正体。さ、っと眉間にしわが寄って、アレンはの手をとっさに取った。 「?」 「気、をつけて、くださいよ…」 「ほんとごめんなさい襲撃には気をつけます任務にも行きます」 が弱弱しい笑みを浮かべる。 違う、そうでなくて、 そうで、なくて ほかの、 「…良いです」 「え?」 「なんでもないです、どうぞ行ってください」 「え、あ、うん」 手を取り引き止めたはずなのに、アレンはの背を外へと押した。 「じゃーね、アレン!おやすみなさい!」 「おやすみなさい」 がラビの槌に足をかけ手を振る。 グズグズと腹の底でくすぶるのはケーキ(仮)のせいだ、絶対にそうだ。 手を振りかえして一人になった部屋で、アレンはずりずりと座り込んだ。ふ、と部屋の隅の鏡が目に付く。近くにあったクッションを、思い切り投げつけた。 何を言おうと思った? ほかの、ほかの男と、そんな無防備に 「なんだよこの帽子」 鏡にうつった帽子、その下の自分の顔。 ずり、とかぶりっぱなしだった帽子を顔の前までおろす。 養父から手をさしのべられた、 あの時とそれとは、違う熱が。 ああもう、こんな間抜けな帽子、火照った顔を隠す以外に役にたちゃしない! |
Merry Merry Christmas !!
赤い帽子
(と熱い頬とぬくもりの記憶と言い訳)
なんだか不完全燃焼ですが、アレン夢でした
精一杯の甘さです。
メリークリスマス!