「もう十二月も終わりですね」

何とはなしにつぶやいて、白い息を吐いた。隣でラビが能天気に、そうさねもうすぐメーリークリスマスさ〜と頷く。クリスマス。神の生まれた日、何人の人間がその恩恵に、采配に感謝し祈りをささげるだろう。任務帰りに見る街は浮き立っている。まぁ、神の誕生という建前の下、それにあやかっているだけの風習になっている部分もあるだろうけど。

「クリスマスパーティの準備かね。つっても、教団じゃあ忙しくってそれどこじゃないさ」

浮き立つ人々を眺めながら言うラビに、そうですね、と頷いてふと左手を見下ろした。神が宿るというその手。けれど、赤く、歪なそれはお世辞にも美しいとはいえない。母さえ厭った手。

この手にはじめて触れてくれた人は、もう、遠い。


「アレン?」

頭に、そ、とぬくもりが触れて我に返った。が不思議そうに顔を覗き込んでいる。この時期はへんに感傷的になってしまっていけない。頭を振って、笑顔を作る。

「なんでもないです。はやく帰りましょ」

けれどは答えずに小さく首をかしげると、アレンの頭をぐりぐりと両手で撫でた。ぐりぐりぐりぐり。髪がぼさぼさになって目の前が見えないくらいになってから、彼女の手がようやく離れる。

「さー帰るわよ!ラビ、はい荷物」
俺?!

手で前髪を掻き分けると、が振り向いて笑っているのが見えた。行こうアレン、と手が伸ばされる。思わずそれを握ろうと、手をのばした。
途端

「おりゃ」
「?!いたっ」

後ろから頭をはたかれる。ラビだ。

「な、にすんですか?!」
「いや、気にすんな、ちょっと憎かっただけさ」
「は?!」
「おいラビ!」
「いてっ」
「アレンに何すんのばーか」
「うっせばーか」
「ラビばーか」

一気にとラビで乱闘がはじまった。いつものことだ、二人の乱闘なんて結局じゃれあいに似た、ふざけあいの延長のようなものなのだから。アレンはにのばしかけた手を見下ろした。醜い手。左手。右手でなく、とっさに伸ばしたのは。
触れてほしかったのか、とうっすらと思う。この手に。

「行こっ」

さっ、と目の前に手が伸び、左手をつかんだ。顔を上げると床に倒れ付したラビの前でが微笑んでいる。

「もういいわ、ラビなんて無視しよう、とことん無視しよう、泣いたら指差して笑おうね」
「…う、っせばーかばーか(結構痛ぇし!)」
「神田に比べりゃましよ!」
「そりゃそーさ!」

神田がこの場に居たらきっと二人そろって切腹させられるだろう。うらめしげなラビとにはさまれて、アレンは小さく微笑んだ。

あの日のぬくもりはもう遠いけれど、いま、ここにも。


「…帰りましょうか」
「うん、帰ろ!」
「なんか腹減ったさぁ」

帰る家
ホーム


目を伏せ、握られた左手に力を込めると、が笑ったようだった。


I love you baby !!
12.25


だいすきアレン!